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2016.05.26 月島区民館
 
「認知症トラブルにマンション管理組合や住民としてどう向き合うか」
マンション管理士・認知症ケア指導管理士 久保克裕

資料「認知症トラブルにマンション管理組合や住民としてどう向き合うか」
廣田信子著「2020年マンション大崩壊から逃れる50の方法!」PR
2016.5.26            
月島区民館                  
認知症トラブルにマンション管理組合・住民としてどう向きあうか
<認知症の介護体験から学んだこと>

講 師:認知症ケア指導士 久保 克裕 氏

 第44回勉強会は、約30名の参加があり、恒例の参加者の自己紹介のあと、「認知症トラブルにマンション管理組合・住民としてどう向き合うか」と題して、認知症ケア指導士の久保克裕氏に、ご親族の認知症ケアという貴重な体験を含めた、認知症とその介護における実態を語っていただいた。

○まず、認知症とは?
 認知症という言葉は、2004年から使われ始め、それまでは痴呆、ボケなどという言葉が使われてきました。
 認知症は、昭和の時代にはあまり大きな問題にはならなかったが、平均寿命の延びとともに増加しており大きな問題になってきた。
 認知症の患者の実態は、平成25年6月のデータでは、65歳〜69歳の2.9%、70〜74歳の4.1%、75歳〜79歳の13.6%、80歳〜84歳の21.8%、85歳〜89歳の41.4%、90歳から94歳で61%、95歳以上では79.5%と、90歳以上では半数以上が該当すると言われている。比率としては少ないものの65歳未満の若年性認知症も4万人程度いると言われ、認知症は身近な問題になっている。

 認知症といっても種類は50種類とも70種類ともいわれているが、主要な3つの症状、アルツハイマー症、脳血管性、レビー小体型で、約90%を占めると言われている。アルツハイマー型は約6割を占めており、レビー小体型は発見されて約30年になる。
 アルツハイマー症は、高齢者の数が多いこともあって女性が多いが、脳血管性、レビー小体型は男性が多い。アルツハイマー症は進行が連続的で早く、脳血管性は階段的に進行することが多い。レビー小体型は症状の進行と回復が繰り返しながら進行していく。

 MCI(軽度認知障害)という症状がある。認知症でもなく正常でもない中間的症状で、5年で約半数が認知症に進行すると言われている。努力次第で約4割は症状を現状維持することができ、1割は改善できると言われている。マンションの管理組合としてはいかにMCIの症状の方の病状の進行を抑えるかがポイントになると考えている。完治する認知症もあるものの少なく、多数は薬で進行を遅らせているのが現状と言える。薬も認可されたものはまだ4種類しかない。

 対応としては、早期発見と意識的な予防対策が重要となっている。認知症になった伯母二人の介護経験も踏まえ、認知症の予兆といえることは、@部屋が汚くなる。A着替えなくなり、風呂に入らなくなる。B小銭(特に1円玉)が増えあちこちに置いてある。C食欲が異常に旺盛になる。ということで、これらの症状が出てくれば要注意。

○長谷川式簡易知能評価スケール
 認知症の治療(診断)に行くと必ず行うテストで、最終的な診断は画像で行うことになるが、家族の方で受けたことがあるというケースもあると思う。
 このスケールを使ったテストの実演を会場で行ったが、目出度く30点(満点)だった。
 認知症が進行している場合4番の3つの言葉の記憶ができなくなり、日付が分からなくなるケースが多い。計算は比較的できることが多い。認知症では覚えることが苦手になっていく。

 20点を切ると認知症の疑いがあると言える。医師の診断を受けた方がいい目安になる。21点〜24点ぐらいがMCIに該当する。

 この長谷川式スケールは、ネットでも簡単に入手できるので、これはという時は実施してみるといいと思う。

 もう一つの、認知症を診断するときのテストで、白紙にアナログ時計の10時10分を書き表すものがある(会場でも実際にやってみた)。このテストでは、認知症になると空間認知力が落ちることが多く、時計の文字盤を左右逆に書いたり、同じ数字を繰り返して書いたりという例がみられる。

○自身の認知症介護体験
 伯母2人の介護体験について、そのきっかけから、最近の入院、養護老人ホーム入所までのご苦労を語られた。認知症になると、診断をうけることを嫌がることも多く、身近な人のアドバイスよりも他人の言葉が有効になったりする。
 認知症の予防として、今ブームになっているのは百人一首は有効。また、潰すとプチプチ音がする緩衝材も有効。年を取ると人と話す機会が減る傾向があり、音読(小学校4、5年程度)も一つの防止法として使える。漢字や計算も進行を遅らせることに効果がある。

○認知症をよく理解するための9大法則と1原則

第1法則:記憶障害に関する法則…新しく覚えられない、記憶の逆行性喪失(最近を忘れ子供のころは覚えている。

第2法則:症状出現強度に関する法則…身近な介護者に強く、時々会う人や目上の人には軽く症状が出る。

第3法則:自己有利の法則…自分に不利なことは認めず、素早く言い返す。

第4法則:まだら症状の法則…状況のいい時と悪い時がある。

第5法則:感情残存の法則…感情に敏感、怒られたこと、ほめられたことは覚えている。

第6法則:こだわりの法則…一つの集中した事柄にはこだわる。気をそらしたり話題を変えることが必要

第7法則:作用・反作用の法則…強い対応には強い反応、無理強いはしない。

第8法則:症状の了解可能性に関する法則…本人の立場に立つ努力が必要

第9法則:衰弱進行に関する法則…認知症の人の老化は早く進行

1原則は、本人を否定しないこと。

○事例研究
 以下3つの事例についてグループで検討し発表

1.ゴミ出しの曜日間違い
  否定しないように配慮して注意、わかりやすい掲示を行う、など日頃のあいさつなどから軽度の認知症があることを把握しておく

2.財布を取られたと言って騒ぐ
  気をそらす、一緒に探そうなどと対応

3.車の運転が危うくなってきたがやめようとしない
  免許証を隠す、車のキーを隠すなど、結果として第三者に危害を加えるような場合は、強い対応も必要。まわりから諭していく、日頃接してない人からの注意も必要

○まとめ
 管理組合の支援として何ができるか?
 地域包括支援センターへの連絡、社協との協力により金銭管理などのサービスを考える(重度の場合)など。エンディングノートもかなり重要。認知症患者に対する偏見を持たず、挨拶をよくして、コミュニケーションを取っておくことが必要

【主な質疑と会場からの意見、等】

Q:認知症患者全体としては女性の方が多い?
A:女性の平均寿命が長いこともあり、全体としては女性が多い傾向

Q:介護をする側をケアする仕組みは?
A:満点は考えてはいけない。家族会に入るなどで介護をした経験や知恵を共有していくことも大切

Q:高齢化、認知症患者の増加により、マンションの総会の成立などについても不安があるが?
A:議決権を子ども世代に譲る(一緒に出る)とか、

そのほかにも、活発な論議があり、本日の勉強会を終了した。

久保克裕氏
認知症テストの実技で被験者をお願いされ、緊張の面持ちの松本洋氏(昨年9月24日の講師)
グループに別れてのケース・スタディ