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2014.05.22
 月島区民館 
  「年をとる」ってどういうこと? 〜高齢者に安全な住まいを考える〜
講 師: シニアライフデザイン代表  堀内 裕子氏
資料

講師:シニアライフデザイン代表
   日本応用老年学会事務局主席研究員
   桜美林大学加齢・発達研究連携研究員
             堀内 裕子 氏

 第28回勉強会は、約30名の出席者の簡単な自己紹介の後、「『年をとる』ってどういうこと?」として、シニアライフデザイン代表で、国内の数少ない老年学の研究者でおられる堀内裕子氏をお迎えし、高齢化の意味についてお話をいただいた。

 よく言われることが高齢化の話はあまりにもざっくりしていて身近に感じられないということ。日本では正常老化を学ぶ機会はほとんどなく、すでに老化の体験をされているはずの世代の方でも、なかなか老化を実感されていない。昔は三世代同居が当たり前だったが、今は若い世代では「死体」に接する機会を持たないのが実状。今日は「年をとる」とはどういうことかお話をしたい。

 最近、高齢化の話題が多くなっている。この4月に65歳以上が人口の25.1%と4人に1人となってきた。年をとるのは悪いことではないが、日本では、平均寿命の伸びに対して健康寿命が延びていない。
 健康でいられない期間が寿命の延びにより長くなっているというあまり好ましくない状態である。実際私の住んでいるマンションでは新築から11年で、自治会も理事会でも役員の回転がうまくいかなくなっている。一般の戸建の地域では、民生委員のなり手が少なくなっている。

 私のこの高齢化の課題への取組みの入口は建築からで、女性だけの一級建築士事務所で住宅改修をやっていたが、昨日までまたげた5ミリの段差につまずいて骨折ということも多かった。高齢者が実際にどれだけ衰えているか、実際に骨折してみればわかるが、実際に握力や膝の筋力がどれだけ落ちているかを考えるきっかけはほとんどない。
 日本ではジェロントロジー(老年学)は馴染みが少なく、最近までちょっと勉強するにも学問書しかなかったが、昨年簡単なテキストを出したので必要な方は連絡ください。

 自己紹介としては、主に3つの仕事をしている。
 1つ目は東京都の福祉施設の評価委員ということで年間100位の特養などの施設を見ている。
 2つ目は、研究の仕事をしている。ジェロントロジーでは、日本では東大が発信力を持っているが1単位のみ。唯一学部を持っているのが桜美林大学で、そちらで学び、研究員として残っている。
 3つ目は、東京都健康長寿医療センター(都老研)に加わっている。

 そのほか商品開発やサービス開発の仕事に携わっているが、昨年位から、一般企業からの講演依頼などが増えている。今年から団塊の世代が65才になり本格定年を迎え、今後3年間で千葉県1県分の人が高齢者マーケットに加わってくることになるためで、5年前に空振りに終ったシニアマーケットに注目が集まり、より高齢化を知ろうとしているからだと思われる。

 ジェロントロジーとはギリシャ語のgeronto(老人)とlogy(学問)を足した造語で1950年頃からアメリカ、イギリスなどで研究されている学問。日本では「老人学」などいろいろ訳されてきた経緯はあるが、文科省の登録では「老年学」で多く使われている。どのような学問かというと、高齢者一人の身体の事を理解するため、縦割りの全部の学問の必要なところを広く浅く取り込んだもの。似た構成は幼児教育に見られる程度。高齢者では学ぶ機会は少ない。

 現在4人に1人の65才以上の人口は2035年には3人に1人になってくる。少子化が問題で、結婚して子どもを産む人は2人以上生むことが多いけれども、結婚しない、結婚しても子どもを産まない家庭が増えている。結果下支えをする人口が増えない。今後、2040年以降は65才の人口は減少し始めるが、75才以上の人は増え続ける構造が見込まれる。

 また、2060年では、現役世代1.3人に高齢者1人と予測されている。家族で誰かが働いて誰かが面倒をみると言うことができなくなる。とはいっても、高齢者の8割は健康に大きな問題はないので元気な高齢者が、残りの健康に問題のある高齢者の面倒をみることも考えなければならない。独居の高齢者が増えているのも課題。

 私が住んでいるマンション(サウザントシティ)は高層から5階まで、7つの建物からなり、建物ごとの戸数もまちまちだが、戸数の少ない棟、共用廊下のある棟ほど棟ごとのコミュニティができている傾向がある。可視化を考えているマンションだが、また、24時間管理員常駐で、合鍵を管理事務所に預けてあって、救急車の手配、誘導などもやってもらえるようになっている。

 前に話した平均寿命と健康寿命の差のグラフで、女性は12.68年、男性は9.13年は生活に制限を受ける期間。でも、幸福感がこれと一致しているわけではない、車いすでも元気にボランティア活動を行っている例がある。

 ここで、「高齢者理解クイズ」
問1.高齢者の大多数はぼけている。(×)〜若い人は(○)にすることも多い。
問2.高齢になると5感のすべてが衰えがちになる。(○)〜味覚については経験が上回ることもある。
問3.大多数の高齢者は性行為に関心がないか、性的不能である。(×)〜目をそむけたい内容
問4.体力は高齢になると衰えがちになる。(○)
問5.中高年の労働者は一般に若い労働者より仕事の能率が落ちる。(×)
問6.高齢者の大多数は変化に対応できない。(×)
問7.高齢者の4人に3人以上は人の手を借りなくても普通の生活をこなせるほど元気だ。(○)
問8.高齢者は一般に新しいことを習うのに若い人より時間がかかる。(○)
問9.高齢者は年とともに信心深くなる。(×)〜経験値に頼るが信心とは違う
問10.高齢者の大多数は退屈など滅多にしない。(○)
問11.加齢は幼児期からはじまっている。(○)
問12.高齢者になると上る能力は無い。(×)〜結晶性能力と言って、稽古事など毎日練習を重ねることにより伸びる能力のこと
問13.高齢者世帯人員1人当たりの所得は、全世帯平均と大きな差はない。(○)
問14.高齢者の貯蓄高は全世帯より低い。(×)
問15.高齢者のいる世帯のうち、半数以上が高齢者のみの世帯である。(○)

 今日の会場ではほぼパーフェクトでした、よく勉強されている方が多いと思う。

 いろいろな年代の人に「シニア」は何才からと聞いたところ、だいたい60代からの回答が多かった。60代の人に高齢者はと聞くと70代から、70代の人では80代からと、決して自分を入れない。高齢者は以前と比べて今は実際10才位若返っている。女性は自分を実年齢より5〜7才位若いと考え、男性は少し控え目で3〜5才若いと考えている。これは、高齢者向け商品を、その実年齢に合わせても当たらず、5〜7才位下をターゲットにしたものが当たるということで、実年齢とか理想年齢とかいうことを頭に置いておいてほしい。

 現在、高齢者は、8割くらいが健康で自立している、この方々を活用することを考えていかなければいけない。それも、何かのインセンティブがある方法が必要、そのほうが責任感が出て、長続きする。これからは、死生学を学ぶ必要がある。今後はいかに死ぬかが人間の権利として大事になってくる。

 加齢は0才から始まっている。老化は、年をとるに従って心身が衰えてくること。正常老化と病的老化があり、正常老化は生理的な老化で、病的老化は同年齢の人に比べて心身の機能の低下が著しい状態。
 たとえば白内障は80歳以上の人はほとんど持っているが、人によっては気になる程度で、人によってはほとんど見えない。これは病的老化になる。
 生理的な老化は主に瞬発性を用いるような運動機能に多くみられる。自立機能の低下も進んでいく。睡眠障害も見られる。どんなことが生活に支障があるかというと聴力、視力、歩行の割合が少し高い。
 どうして5ミリの段差につまずくようになるのか、これは、年をとることで歩行のピッチは変わらないが、筋力の低下でストライド(歩幅)が小さくなることによる。握力は膝や肘の力に比べて比較的落ちない。

 聴力については、高齢者は高音域が聞きづらくなる。聞こえないというより音がひずむようになる。高齢者の耳元で大声を出すより、顔を見てゆっくり話す方がよい。老眼は日本では平均で43才頃から始まると言われているが、最近はテレビ、ゲーム、パソコンなどで30代からの老眼が始まっているとも言われている。若い方に老化をよく理解してもらい高齢者向けの商品開発などに生かしてもらいたい。最近では歩行速度や握力については10才位若返っている。

 家庭内の死亡事故は、交通事故の倍くらい多い。溺死とか、窒息とか、転落、転倒とかが多いが、たとえば溺死だとこれは直接の死因であって、実際はヒートショックがあって意識を失うことが本来の死因。
 家庭内事故は交通事故とは違い、たとえば窒息だと食品の事故、ヒートショックだと電気製品の関係とか、転倒とかだと家具の事故と、管轄が分かれていて、これらを集計して不慮の事故としてあがってくるので、対応がとりにくい。
 家庭内の事故は高齢者に多く、12月、1月の発生が多い。原因はヒートショックで戸建ての方がリスクファクターが多い。80才代に多く、年齢が高くなるにつれて窒息や転倒、転落が増加している。予防法も資料にあげているので参考にして欲しい。

 家庭内事故を誘発する原因に日本的なハードウェアのバリアがある。どうしても戸建てでは湿度の問題で段差がある建て方や、尺貫法で十分な車いすに適応できる幅員が確保できていないなど。バリアフリーに対応した改修事例を参考にしてほしい。決まった高さとかサイズでなく個々の居住者の体型とか病気のあり方、心の問題、家族の問題などを加味して改修をしていかなければいけない。

Q.建物改修で段差をなくすことが、高齢者の能力を奪ってしまうことになり、適応性をなくしてしまうのでは?
A.寝ているところからトイレの間の段差は無くした方がいい。玄関などは、入居者の状況に応じた対応を求められる。段差を超えられる能力を持っている人には、視覚で注意を与えるなど対応を考えて段差は残した方がいい。

Q.日本では高齢化をネガティブに捉えているが、欧米ではエイジングとしてポジティブに捉えている。日本でも老いることが悪いことではないというイメージに変えていきたいが、若者に老いの楽しさなどを伝えるためになにか方法は?
A.結晶性能力と流動的能力があり、前者は、年とともに積み上げていくもので年をとっても落ちていくことがないかもしれない。しかし、このことを誰も学ぶ機会がなかった。この年をとっても落ちない、あるいは上っていく能力あることを学び、エイジングをポジティブに扱い商品開発に生かしたりしていかなければならないと思う。実際今の60台の人は老化をポジティブに考えている。

Q.マンションの管理組合の元気な高齢者がプライドをかけたような争いをするケースがあるがどう考えるのか?
A.できるだけ平等な発言機会を与えるようにして、合意をまとめていくしかない。まだマンションは一般の地域よりは生活のレベルが揃っていると思う。

 
講演の模様