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2017.2.23 月島区民館 

テーマ:地域ブランドづくりでマンションの価値を上げる

講 師:花牟禮幸隆氏
     株式会社アール・アイ・エー参与/一級建築士

日 時:平成29年2月23日(木)18:30〜
場 所:月島区民館

資料:地域ブランドづくりでマンションの価値を上げる
 第49回勉強会は約30名の参加があり、恒例の参加者全員の自己紹介を行った後、第26回勉強会(約3年前)でマンションの長寿命化改修についてお話しをしていただいた、一級建築士の花牟禮 幸隆氏をお迎えし、今回は「地域ブランドづくりでマンションの価値を上げる」と題し、開発開始から50年を経過した多摩ニュータウンの事例を元に、マンションの価値のアップに繋がるまちづくりについてお話しいただいた。

 高経年マンションでは、建て替えか改修かと色々と論議がされても、人口減少、空家問題など深刻化のなかで、一つのマンションが単独で方向を探ってもどうしようもなく、地域全体の価値のアップを図らないと実りにつながらない。その中で、ソフト、ハード両面でのまちづくりに見識の深い花牟禮氏のお話しで、地域、マンションのブランドづくりにつながるヒントを伺うことができた。

 お話の概略は次の通りでした。

 主に都市再開発にかかわる住宅の設計を行ってきた。
 住宅について、30年、40年と経過した団地と新築のマンションでは、環境に格段の差が出ている中で、若い世代が住宅を購入する動機は何かという事で、地域の街づくりに関する問題を考えるようになった。

 花牟禮氏の住む団地では、外断熱工事も実施し、住宅性能は上昇し、住みやすさも格段に向上したが、それが不動産価格には全く反映されていない。不動産屋さんと交渉しても一向に反映されず、価格は立地と築年数だけで決まってしまう。
 実際に不動産を販売する際も、古いマンションでは、建物の内装で壁紙が代わったとか、浴槽やキッチンを更新したとかを説明するだけで、そのマンションの住みやすさということにはまったく触れていないのが実状である。
 住民たちが住みやすさを向上させるためにやったことが住宅価格には全く反映しない。この変化を認めてもらうにはどうしたらいいかを考えた結果、団地の住みやすさをSNSなどでどんどん発信して行こうと取り組み始めた。この活動はまだ取り組み始めたばかり。このような取り組みについて、参加されている皆さんの意見を伺いたい。

 マンションの価値というと、不動産の売買価格を元に考えてしまう。実際この価格は、立地条件と築年数(特にほとんどが後者)で決まるので、もっとマンションの住みやすさの価値を高め、どんどんと発信していくことが必要と考える。
 マンションの暮らしやすさとは、インフラとか住宅性能を、共用部を中心にその時代に適合させていくこと、これを大規模修繕で実現することが必要。
 団地も30年以上経過すると次の大規模修繕について、団地の将来像をしっかりと定めて、建替えなのか住み続けるのかの方向性を固めることが必要。
 そして住み続けるのであれば、更に30年先を考えた住宅性能の向上のための対応の内容を決めて、段階的でも、借り入れをしてもいいので、進めていくことが必要。お金がないとしてもないなりに進めていくことは可能。

 建物は、塗装とか見え方で大分変わってくる。植栽などの外部環境でも左右される。
 古い羊羹型のマンションでも、周りの植栽が整備されていれば古さは感じなくなる。インフラなどの外部環境については、将来の姿(方針)を決めておいて、工事を発生する部分のみ部分的に進めていけばいいこと。そして、必要に応じて変化させることも必要。花牟禮氏のマンションでは、まず植栽の配置図を作成し、その上に配管を入れ込んだ総合図を作って対応している。

 そしてコミュニティ、これは、例えば大規模修繕で集会所を改修するのであれば、ただ設備の更新を考えるのでなく、集会所を「どう使うか」を考えた上で、より使いやすいように改修することが必要。ただ、会合に集まってくるのは高齢者の男性ばかりであることが多く、意見がなかなか今の時代に適合したものにならない。
 集会所であればその空間を生かすように考えないと、豊かなコミュニティは生まれてこない。こういうことを大規模修繕で実現させていく。それで、多様な生活スタイルに対応し、若い世代の購買意欲を促すことにつながっていく。結果として資産価値を高めていくことが重要と考えている。

 この「住みやすさの価値」をどうするかについては、マンションの住戸の機能ではなく、庭園や広場、外構(エントランスなど)の外部環境を整える必要がある。
 築30年以上経過した旧公団分譲団地では、この外構が非常に豊かなものが多く、少し考えると大胆に変えることが可能。この手法はいろいろ考えられている。それと、マンション内のコミュニティを活発化させることが大事で、人間関係ができていると大規模修繕などの合意形成も取りやすい。

 団地の敷地内にとどまらず、周辺環境に目を向けることも重要で、今はこれを実施している。周辺の街並みが、古いものなら古いなりにその良さがあるので、自分たちで再発見していく必要がある。築何十年となるとその環境の事は忘れていることが多いので、それを再認識することが重要。
 団地で30年史を作った時に寄稿した文の冒頭は「皆さんが住み始めた時にその時の感動を思い出してください」と、自分たちの団地と周辺を再認識することの必要性を書いた。街並みと、地域のコミュニティから、街への愛着が生まれるもので、それを再認識し参加することが大事。その中で今話題の「ブランディング」につながっていく。
 発見をし、それを共有し、外部に発信していくことこれが「ブランディング」と考える。住宅地であれば、「そこに住みたい」と思う気持ちがあることがブランドとなり、住み易いことが必要。不動産の価格は需給のバランスから決まるものなので、住みたい人が多ければ価格は安定し、少なければ下がっていく。そこに商業がないと地域は成り立っていかないもの。

 周辺環境というと、「まち」の成り立ち、歴史が大切で、それを住民自身で調べる事で地域の愛着につながるということで、今実行している。町内会長さんなどに話を聞いたり、町の名所、名店、イベント、ビューポイントなどを確認したりすることが必要だが、町の設計者の話を聞くことが大事で、その人たちの「こだわり」を知ることで、「愛着」につながっていく。
 実際に住民で回ってみた、多摩ニュータウンの「まち」の、特徴のある橋、団地の建物より高い築山、ずっと富士山の見える桜並木、公園にあるモニュメントなどの景色を写真で、そして、町の設計に関わった公団の関係者と町の成り立ちを聞きながら歩いた時の話。これで、あらためて、多摩の街の良さを再発見できた。町の設計者と共に「レガシー研究会」を作っていて、町の良さを発信するとともに、地域との連携を模索している。団地も高齢化が進むとともに、若い人の積極的な参加がない状態で、団地の外部の人の参加も活性化につながっていく。そこに住んでいる人の意識が重要で、共有していくことが大切と考え活動している。

 そして、今日は会場の方のいろいろな取り組みも聞きたい、ということで講演を終了。

 その後、廣田代表の「多摩ニュータウンは、町の良さをただ発信するだけでなく、物語をつけているところが素晴らしいところ」という感想と、会場からは、新狭山団地や浦安の連合会での取り組みを簡単に話題として紹介いただいた。
 特に外の若い人たちの共感を得るためには、まずはHP等、インターネットの情報、そこに物語があること、住んだ時の豊かなイメージが描けること。このためには積極的に「発信」していくことが大切。などの意見があった。