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2015.04.23
 月島区民館 
「大規模修繕工事瑕疵保険」を正しく知ろう!

(株)住宅あんしん保証 大規模修繕保険事業課長 渋谷 貴博 氏

【資 料】
1.「大規模修繕工事の保証」について(工事会社と組合のトラブル例)
2.「請負人の瑕疵担保責任」(参考文献:(株)不動産流通研究所)
3.瑕疵保険ができた背景など
4.マンション管理新聞記事による事例紹介
5.住宅相談と紛争処理の状況(住宅リフォーム・紛争処理支援センター)
6.瑕疵保険ガイドブック
7.瑕疵保険パンフレット
8.瑕疵保険チラシ
「大規模修繕工事瑕疵保険」を正しく知ろう!
講師: (株)住宅あんしん保証 大規模修繕保険事業長  渋谷貴博氏

 第35回勉強会は、(株)住宅安心保証の渋谷貴博氏を招いて、大規模修繕工事瑕疵保険に関するお話をしていただきました。当日の出席者は約20名で、恒例の冒頭自己紹介で始まりました。

1.(株)住宅あんしん保証について
 (株)住宅あんしん保証は平成11年に設立した会社で、当初は戸建住宅向けの瑕疵保険でスタートしました。大手建材メーカー、商社、損保会社62社が出資しています。保証については、出資している損保会社(3社)が再保険を引き受けています。

2.大規模修繕工事でのトラブル事例
【例1】
 大規模修繕工事後に漏水が発生し、補修を求めたところ、「当社が工事したところではない」と応じてくれませんでした。
 建築した会社と大規模修繕を実施した会社が違う場合は、どちらの工事が原因か区分けが難しく責任逃れの口実にされることがあります。業者の担当者は、工事ミスを会社に報告したくないであろうし、管理組合の知識不足に付け込んでもみ消しを謀るケースもあります。大手の業者といえども、この事例はあります。大規模修繕工事の都度、違う会社を使うと責任の区分けが一層複雑になります。

【例2】
 屋上防水工事完了後に雨漏りが発生し、下階住戸の内装が汚損した。業者が補修したものの、雨漏りが再度発生したり、内装の補修もクロスがはがれたりと中途半端でした。
 終わった工事について、業者は手間やお金をかけたくないので、原因調査や補修がおざなりになることがあります。

【例3】
 排水管のライニング工事を実施し、業者から全て終了したと報告があったが、1年後に漏水が発生しました。原因を検査会社に調べてもらったところ、漏水部分には全くライニング工事がなされていませんでした。

 大規模修繕工事瑕疵保険に入っていれば、保険会社が瑕疵か否かの判定をして、瑕疵と認めれば補修等の費用を保険金として支払います。保険会社が管理組合と業者の間に入るため、管理組合の専門知識不足を補えます。保険会社による原因調査結果提示と保険金があるため、業者の補修の質の向上も期待できます。

3.大規模修繕工事瑕疵保険ができた背景
 平成12年施行の「住宅の品質確保に促進等に関する法律」(品確法)により、建築業者は構造耐力上主要な部分と雨水の侵入を防止する部分について10年間の瑕疵担保責任を負うこととなりました。しかし、平成17年に発覚した構造計算書偽装事件では、業者が倒産してしまい、多くの人が自費での補修や建替えをしなければならない被害をうけました。

 業者倒産も想定した買主の救済を図るため、平成21年に「特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保に関する法律」(履行法)が全面施行されました。この法律は、建設業者へ供託や保険による資力の確保を義務付けるとともに、保険引受主体の整備、住宅紛争処理体制の整備を図るものです。ただし、建設業者の資力確保の義務は新築後10年間で、中古住宅の購入や大規模修繕工事の瑕疵担保責任は任意のままとなっています。

 大規模修繕工事は、ほとんど建築確認申請の必要がなく、行政の影響が及ばないため履行法による義務化対象外となっています。しかし、現実に瑕疵による被害は発生しており、保険が必要との判断で平成22年より「大規模修繕工事瑕疵保険」を開始しました。

4.大規模修繕工事瑕疵保険の概要
 この保険の契約者は、大規模修繕工事を請け負った建設業者です。管理組合が契約するものではありません。

 外壁補修・屋上防水工事は、竣工から5年間の水漏れ瑕疵を基本とし、5年のタイル剥落と10年間の屋上漏水瑕疵を補償する特約があります。排水管更新工事は、基本5年間補償で、10年延伸の特約を付けることができます。保険料は、床面積と戸数、保険金支払上限金額で決まります。概ね工事費の0.4〜0.9%程度の金額です。保険金は、建設業者が支払いますが、大規模修繕工事に関わる費用として工事費に加算されるので、間接的に管理組合が負担することになります。

 瑕疵判明時に倒産等で工事業者が補修出来ない場合は、補修費用の全額が保険金として管理組合に支給されます。一方、業者が健在の場合は、業者へ補修費用の80%程度が支払われます。一部を業者負担とすることで、保険に依存して瑕疵抑制の努力を怠るモラルハザードを防止しています。

5.大規模修繕工事瑕疵保険の利用状況
 平成25年度は、450棟の申込みがありました。このうち、9割が管理組合からのリクエストで申込んでいます。工事業者を選定の入札参加資格として瑕疵保険加入を条件とする管理組合が増えているためです。
 入札参加条件にすることで、業者は加入せざるを得なくなります。保険に加入していれば、瑕疵があったときの保険金支払ばかりではなく、保険会社による事前の図面の確認や工事中に検査員を派遣するなど、瑕疵の低減にもつながります。

【Q&A】
@ Q:事故の少ない人の保険料が安くなる自動車保険のように、瑕疵が少ない業者の保険料を割り引く制度は考えていないのか?
A: 昨年、住宅リフォーム事業者団体登録制度が始まり、加入している事業者は一定の水準にあるとして割引を考えている。今後、保険利用が増えれば、瑕疵発生状況のデータが蓄積され、優良業者の開示もできるかもしれない。
A Q:設計管理方式であれば、施工業者の対応が悪いことを設計・管理業者が放置できないはず。信頼できる業者を選定できれば、瑕疵保険は必要ないと思う。実際、大規模修繕後に水漏れが発生して、なかなか原因がわからないということが起こったが、その業者は最後まで対応してくれた。
A: 事例で紹介したことが実際に起こっている。保険金が支払われ事案もあり、必要なシーンもある。
B Q:タイル剥落の5年補償が特約というのは意外。5年では短く、10年は必要ではないか?
A: 水漏れの原因がタイルの浮きの場合は、基本の水漏れ補償で保険金がおりる。特約は、水漏れを伴わない浮き・剥落を補償するもの。保険の認可申請の際に、タイル剥落特約は思い切ったサービスと言われた。(発生頻度が多いものほど、保険金支払が多くなる)
C Q:図面や工事現場の検査で是正指導をした実績があるとのことだが、どのような指導をしたのか?
A: 工事の材料や工程、施行方法が提出書類と違っていることの是正指導が多い。
     
講演の模様